美術館へ行く前に、美術のことを予習しておきたいと誰でも思うのではないでしょうか。堅苦しくなく美術史を復習したい。そんな時にオススメなのが、アート小説です。
最近ひょんな事から、アート小説作家である原田マハさんの小説を読む機会があり、どっぷりアート小説にハマってしまいました。原田さんの小説は、実際の美術史にフィクションを織り交ぜた文体が特徴で、史実とフィクションを同時に楽しめてしまうのです。
今回は、いくつかオススメの小説を紹介していきます!
1)暗幕のゲルニカ
スペイン・マドリッドにあるソフィア王立芸術センターに貯蔵されているピカソ作品「ゲルニカ」を題材にした小説。「ゲルニカ」は、1937年スペイン内戦中にドイツ軍がスペインのゲルニカに落とした空爆をモチーフに書かれた油彩画です。
世界に3点だけ、ピカソの指示のもと作られた「ゲルニカ」のタペストリーがあります。国連本部の会見場に飾られているタペストリーの一つが、アメリカのイラク空爆前夜に行われた会見時にタペストリーに暗幕がかけられていました。この実際にあった事件が基になってストーリーが作られています。
私は、作品を読む前にすでに「ゲルニカ」を鑑賞していたのですが、この作品を読んでまた「ゲルニカ」を見にいきたくなりました。ゲルニカが書かれた背景は何となくは知っていたのですが、この小説を読んで、ピカソがいかに苦悩して作品を作り上げていったのかがまざまざと感じられたからです。
2)モダン
短編小説集ですが、納められている作品に共通した舞台は、モダン・アートの聖地とも呼ばれるニューヨーク近代美術館(MoMA)です。各短編には、ピカソやマティス、ルソー、ワイエスといった美術界の巨匠が登場します。
私はまだMoMAには行った事がないのですが、この小説を読んで、MoMAがいかにモダン・アートにおいて大事な位置を占めているのかが感じられました。
3)ジヴェルニーの食卓
こちらも、短編集ですが、注目したいのがタイトルにもなっているクロード・モネの一編。モネには、二つの家族がありました。一つ目の家族が、最初の結婚の妻と息子たち。二つ目の家族が、芸術家として認められてきたとき、仕事を与えられていたパトロン一家の妻と子供達です。
パトロン一家の家業が傾き、財産がなくなってしまったのち、パトロン一家の妻と子供達がモネの一家と暮らすようになりました。モネの優しく暖かい色彩の背景にある、一見複雑そうに見える家族の存在。この短編を読むと、モネの絵の見方が変わると思います。
他にも、マティス、ピカソ、ドガ、セザンヌといった印象派芸術家を題材にした作品が収納されています。
3)たゆたえども沈まず
小説「たゆたえども沈まず」は、生前にはほとんど絵が売れなかったと言われているフィンセント・ヴァン・ゴッホ。彼が活躍した時代と同時期に日本の美術を広めようと単身フランスに渡りビジネスをしていた林忠正。二人が出会って、ゴッホの運命が変わって行く様を描いています。
ゴッホのあしあと
「ゴッホのあしあと」は、小説「たゆたえども沈まず」を執筆する際に、様々な取材を重ねられるうちに明らかになったことを中心に描かれている原田さんの随筆。ゴッホの作品を鑑賞する前に、是非とも読んでおきたいですね。
番外編
ちなみに原田さんはアート小説以外も多数執筆されています。
総理の夫
個人的に好きな作品。日本で初めて女性総理大臣の誕生というテーマ。総理の夫が主人公で、初めて「総理の夫」となった日から記した手記という形式になっています。
最近ニュージーランドの女性首相が第一子を出産して産休を取ったことで話題にもなっていましたが、日本でもこの作品のように女性首相の誕生が現実になる日は近いのでしょうか。
今日はお日柄もよく
原田さんの小説の中で、最もよく知られているであろう小説。伝説のスピーチライターに弟子入りした主人公が成長して行く様を書いています。「総理の夫」とリンクする部分もあり、合わせて読むと面白いかも。
まとめ
しっかりと話が作り込まれて流れるように進んで行く原田さんの小説。アート関連の小説も、関連のない小説も、どちらでも楽しく読めるはずです。もしパリやマドリッド、ニューヨークで美術館を訪問するつもりなら、原田さんの小説を旅行前に読んでおくと良い予習になると思いますよ!
ではでは。