転職回数が多いって悪いことだと思いますか?
とても興味深いTED動画に出会いました。それは、「Why the best hire might not have the perfect resume(最高の人材は、完璧なレジュメを持っているわけではないのは何故か?」です。この動画を見て、転職やキャリアについて考えさせられたので、まとめたいと思います。
TED動画を見て
アメリカ企業の人事マネージャーRegina Hartleyは冒頭で問いかけます。「アイビーリーグの大学を首席で卒業した完璧な経歴を持つ人と、高卒で、転職回数が多く、その中にキャッシャーやウェイトレスといった、募集ポジションに関連のない職についていた人、人事マネージャーとしてどちらを採用すべきでしょうか?」と。
イェール大学卒業生を採用すれば間違いない、と思う人が大半ではないでしょうか。
Reignaは続けます。「確かに、転職回数の多さは、キャリアに一貫性を持てないことを示していたり、先を読む力を欠けているということができるかもしれません。でも、障害や困難にぶつかりながらも前に進んでいる、という見方もできます。」
転職回数の多さは、苦労した回数の多さ、そしてそれに立ち向かう能力を兼ね備えている可能性を表すと彼女は指摘します。エリート大学を卒業した学生は、良い成績を持っていても、そういった困難に面したことがないことが多く、困難対応能力を持ち得ていないことが多いからです。
彼らは、プライドが高く何でもできると思っている節があること、でも実際仕事をしてみると今までマニュアル通りの人生を生きてきたため、マニュアルに載っていないことには対応しきれない柔軟性の欠如が見られることが多くみられるのだそうです。
そして、Reginaは採用担当者に毛嫌いされそうな人材の例を出します。
「両親に養子に出され、大学を中退し、数回転職し、そして一時的にインドに滞在していました。そして、失読症の持ち主です。
あなたはこの人を採用しますか?
彼の名前は、スティーブ・ジョブスです。」
Reginaが指摘するのは、両親に恵まれなかったり、子供時代に勉強する機会を得られなかったりと環境に恵まれなくても、そして失読症といった病気を持っていていても、そういった不運や逆光に立ち向かった経験こそ、その人の強さややる気を育てるのだと言います。
私たちが一般的に考えると、転職回数が多い、片親、大学中退といった事柄は履歴書上では敬遠されがちでした。でも、その情報だけで人を判断してしまうと、本当は素晴らしい努力をしていたり、困難に立ち向かう能力に長けている人 素晴らしい才能や努力をする人を見逃してしまう可能性があるのです。
大事なことは、完璧な履歴書ではない。そして、履歴書を完璧にすることではない。逆境に屈せず、その経験をバネにして前に進んでいけるかだ、とこの動画を見て思いました。
是非動画も見てみてください。まだ日本語字幕はありませんが、簡単な英語なので、英語字幕をつければ理解しやすくなると思います。
どうして日本では転職回数だけしか見ないの?
この動画を見て、まず思い出したのが、日本で働いている時に登録したキャリアコンサルタントの人に言われた言葉でした。「もう既に2社転職しているので、転職はあと1回に押さえてください。日本企業は、転職回数3回以上になるとどこも採用したがらなくなるので、転職が難しくなりますよ。」
え?転職回数だけで、人を判断するの?と耳を疑いました。例え転職することでキャリアアップを重ねていても、転職回数が3回を超えると、ずっと同じ会社に勤めずっと同じ仕事し続けていた人よりも、日本での転職市場では不利になるのだそうです。
確かに転職回数の多さは、場合によっては一つの仕事に定着できないという見方ができるかもしれません。でも、見方を変えれば、各企業で学んで、どんどんキャリアアップしているとも言えるのです。同じ企業で昇働き続け、昇進を狙うことだけが、キャリアアップの仕方ではない。こういった視点が抜け落ちているなあと思います。
転職の回数ではなく何をしてきたかが重要
私は、日本のベンチャー企業から、外資系多国籍企業に転職をしました。全くカラーの違う二つの会社で働いたことで、多くのことを学びました。そして、その経験が今に結びついています。
今ドイツで就職活動をしていて思うのが、多くの企業が私のベンチャー企業と多国籍企業で働いた経験が役立っているということ。「面白い経歴だね。」と興味を持ってもらえることが多く、アドバンテージとして評価してもらっていると感じます。転職をしたことを不利のとるのではなく、その人が何をしてきたかに重点を置いて見るからなのでしょう。
もし、私が日本の大企業で4年間働いていたとしたらどうだったのかな。まあそれはそれでアピールすることはできるのでしょうが、面白味には欠けていたでしょうね。きっと今のように、転職をしたことで乗り越えた困難や、チャレンジしたことを語れないはずですから。
新卒で大企業に入らなくて良かった
大学を卒業して大企業に入らなくて良かったな、とも思っています。私は、早稲田大学卒業なので、周りには大企業に就職する人がたくさんいました。
でも、私の卒業時期はリーマンショック後の就職氷河期だったこともあり、大企業は新卒採用枠を減らしており、リーマンショック前に卒業した先輩達に比べ、大企業に就職する人割合は、減っていました。私の周りでも、就職浪人という選択を取る人も少なからずいました。
大学に入学した頃は、何も考えず、卒業したらそれなりの大企業で働くことができるだろうと鷹をくくっていましたが、もろくもその甘い考えは打ち砕かれました。まあ、後から見れば、この時期に就職活動をして、人生を考え直せて良かったのですが。
そうして、ベンチャー企業に入社し、その後外資系多国籍企業へ転職。その間も、色々と大変な事はありました。転職しようと思っていたNPOに急に辞退されたり、働いていたベンチャー企業に退職届を出したらその日付けで退職することになったり。普通に大企業でぬくぬく働いていたら、こんな経験しなかったんだろうなあ。
でも、この経験をしたからこそ、自分のキャリアに責任を持てるようになったし、今の自信につながっています。きっと、何も考えずに大企業で働いている私よりも、今の私の方がずっとずっと困難対応力がついているし、逆境にも負けないと言い切れます。
大学名にはもう頼らない
大企業で働くのが悪いわけではないです。念のため。それよりも、企業名や大学名に頼りすぎないことが大事ってことです。私も、最近は早稲田大学を卒業したことをすっかり忘れていました。
日本で転職活動をしているときは、大学名をアピールしていたものです。早稲田大学を卒業したというだけで、「おおお!」付加価値が与えられていたのですが、もちろんドイツにおいては、日本の大学なんて知られていません。
むしろ、数年働いたら、大学名で評価されることはなくなります。もはや、大学名には頼るべきではありません。何をしたか、何ができるか、を見られるようになるし、この点から勝負すべきだと思っています。
本当に魅力的な人って?
そして、面白い経験を積んでいる人、常にチャレンジし続ける魅力的な人って、皆リスクをとったり、困難を味わっています。有難いことに、私の周りにはいつも刺激をもらえる、そんな素敵な友人が多いのです。
例えば、大学時代の友人のひとりは、アメリカで修士号を取った後、日本の外資系企業でリサーチャーとして働いていたのですが、更に夢に近づくため、一度退職しマレーシアのNPOで半年間働くことにしました。
もうひとりの友人は、シンガポールで3年働いていましたが、更なるキャリアアップを図るために、アメリカのシリコンバレーへ行き、新しい分野で働き始めました。彼女達は、自分のやりたい事に向かって、例え困難な道であろうともチャレンジすることを選び、その中で多くのことを学び日々成長しています。
彼女達も、前述の日本企業の慣習を当てはめると、履歴書上は転職市場では不利になり、人材としては魅力的ではなくなるのでしょうか。
終わりに
日本では特に、転職回数は3回以下の綺麗な履歴書が重んじられています。でも、本当に大事な事って、そこではないはず。もっと多くの企業が、本当に大事な事に気づいて欲しいし、働く人も、転職回数にビクビクするのではなく、もっと転職の中身に重視して欲しい、と思ってここまで書いてきました。目指すべきは、完璧な履歴書じゃなく、経験です。